研究概要 |
アルカリ金属ドープC60(Ax60,x=1-6,AはK,Rb等)は三つの伝導帯をもつため,0<x<6の価数で金属となると予測される.しかしながら,実険的にはA2C60とA4C60は絶縁体であることが明らかにされている.この異常な振舞の原因としてこの物質における電子間相互作用と電子格子相互作用の重要性が指摘されてきた.これまで我々は,A2C60とA4C60においては電子間相互作用と電子格子相互作用が協力的に働いて大きなバンドギャップが形成されるために,これらが絶縁体になることを明らかにしてきた.これに対し,A3C60が金属となる理由についてはこれまで詳しい理論的研究がなされていなかった. 本研究において平成13年度に得られた成果の一つは,電子間相互作用と電子格子相互作用がともに強いにもかかわらずA3C60が金属状態を維持できるのは,二つの相互作用が競合することによりその効果が相殺しあうことによることを明らかにしたことである.さらに,この競合は単なる相殺に止まらず光電子スペクトルにおいて特徴的な構造として現れることがわかった.平成13年度に得られたもう一つの成果は,A4C60における低エネルギー励起として励起子が重要な役割を果たしていることを明らかにしたことである.A4C60のバンドギャップには伝導電子間のクーロン斥力が大きく寄与しているため,この物質では励起子効果が顕著であることが予想される.実際,理論的な解析を行った結果,この予想が正しいことが立証できた.さらに,興味深い点として,スピン一重項励起子がスピン三重項励起子よりも低エネルギー側に存在することが明らかとなった.これは通常の絶縁体における状況と逆であり,A4C60における励起子の著しい特徴であるといえる.
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