アルカリ金属ドープC60は、分子性結晶としては異例に高い超伝導転移温度をもつ物質である。その超伝導発現機構については未だに論争が続いているが、本研究グループではこれを電子間相互作用と電子格子相互作用の競合に後者が動的ヤーン・テラー効果により打ち勝つことにより生じるものであると主張してきた。本研究では、このような立場から、超伝導をはじめその他の低エネルギー励起が関わる物性についての実験事実を説明することを試みた。まず、ひとつ目として、アルカリ金属ドープC60の光電子スペクトルの示す異常について、動的平均場近似をもちいて理論的に調べた。その結果、C60分子ひとつに対してアルカリ金属を4個ドープした物質においては、電子間相互作用と電子格子相互作用が協力的に働くことにより、この物質を絶縁体にしていることがわかった。また、電子格子相互作用が電子間相互作用に由来するHund結合よりも強いため、磁気的には非磁性状態が実現されていることがわかった。さらに、実験的に観測されている赤外反射スペクトルの低エネルギー側に見られる構造がアルカリ金属ドープC60における価電子の間の相互作用に由来する励起子に起因するものであることがわかった。とくに、スピン1重項励起子がスピン3重項励起子よりも低エネルギー側に現れるという極めて特徴的な性質を明らかにすることができた。このような特異な性質は、この物質における電子格子相互作用に起因するヤーン・テラー効果が重要な役割を果たしていることがわかった。
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