研究概要 |
初年度は、Keldysh Green関数を用いてX線吸収微細構造(XAFS)とX線光電子スペクトル(XPS)の第一原理からのアプローチを試みた。XAFS理論に関しては、X線吸収強度が可約分極関数で正確に表されることを見いだし、それを用いてXAFSに及ぼす共鳴効果、ロス効果などを議論した。この理論的な枠組みを用いると、なぜXAFSではDebye-Waller因子のみが重要でFranck-Condon因子が重要でないかを明確に説明できる。その詳細はXAFS国際会議の招待論文(J. Synchrotron Radiation 6 (2001) 76-80)にまとめられている。 XPSの第一原理の理論としてはCaroliらの理論があったが、実際の応用には不向きであった。Caroliらの理論に現れる非平衡Green関数G^<をやはりスケルトン展開し、多原子共鳴光電子放出(MARPE),ロス(intrinsic+extrinsic)、Debye-Waller, Franck-Condon因子の役割について理論的に詳細に検討した。この理論形式を用いるとXAFSとは対照的に、XPSではDebye-Waller, Franck-Condon因子ともに重要な働きをすることが明確に説明できる。特にMARPEの現れる条件を詳細に検討し、X線吸収原子の周りの格子欠陥、正8面体からのずれなどがなければMARPEは現れないことを初めて指摘した。また、ロスの前後で弾性散乱される効果も考慮できる定式化を行い、実際のプラズモンロスの解析を行える公式を提示した。この結果はJ. Elect. Spect. 123 (2002) 19-46. に28ページに及ぶ論文として公表している。
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