本研究の目的は、半導体のエピタキシャル成長時に界面で発生する逆ピラミッド型および平面型の積層欠陥の形成機構と電子物性を明らかにすることである。本年度得られた知見は以下である。 1.Si(111)表面における積層欠陥四面体構造の解明: 開発した分子動力学+第一原理計算を用いて、塩素吸着したSi(111)表面に発生する積層欠陥四面体の頂点・稜・面すべての原子構造と電子構造を明らかにした。特に、(1)吸着塩素が2つ以上隣接すると塩素を覆うようにSiのドーム構造が形成され四面体の頂点構造となること、(2)この頂点に発生するSiの不対ボンドが電子・正孔の捕獲中心になること、(3)四面体の綾ではSiは稜方向にダイマーを形成し、ダイマー状態は価電子帯内に埋まるので稜は電子・正孔の障壁層になること、(4)四面体の面(積層欠陥面)は1原子厚のウルツ構造層と考えられ電子・正孔の量子井戸層となることを明らかにした。これら結果は、積層欠陥四面体が境界にキャリアを持つ量子ドットとなることを示し、NTTの蟹沢らの実験結果をよく説明する。 2.AlN窒化物半導体の成長表面における極性反転構造の解明: 第一原理計算を用いて、2原子層のAl薄膜を成長中にはさむことでAlN(0001)成長表面がN極性からAl極性に反転することを明らかにした。特に、(1)2原子層以外のAl膜厚ではバルクのAlが成長し反転は起こらないこと、(2)その原因はAl/AlN界面のAl-Nボンドの形成にあること、(3)最表面のAlNは、基板のAlNに対して50パーセントの確率で積層欠陥配置に成長することを明らかにした。同様の結果はGaN、InNでも予測され実験結果を良く説明するとともに、半導体表面上の薄膜金属層は半導体との結合を通して平面型の積層欠陥を発生させる原因となることが理論的に解明された。
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