研究概要 |
本研究の目的は,密度汎関数法の範囲の第一原理計算によって,遷移金属電極界面を流れるトンネル電流,および金属電極からの電界放出電流を解析することである。平成13年度は共同研究者のBlugel教授のグループとの共同研究により,この目的を達成するための基礎理論の構築し,計算プログラムの開発を行った。 1.グリーン関数法による波動関数の転送行列の計算 スラブ上の領域を考え,その両側の境界面をS_1,S_2とする。S_1上での電子の波動関数とその法線微分(Ψ,∂Ψ)を,S_2上の(Ψ,∂Ψ)に結びつける行列を転送行列という。2電極界面の両側を結ぶ転送行列から,界面を通過する電子波動関数の透過係数が計算でき,Landauer公式を用いてトンネル伝導度が計算できる。我々は,境界面上の法線微分を0とするNeumann型境界条件を満たすグリーン関数を用いて,転送行列が簡単に表せることを示した。 2.FLAPW法による計算プログラムの開発 上記の理論を実証するため,線形化補強平面波(LAPW)基底関数を用いたグリーン関数の計算プログラムを開発した。この際,グリーン関数のNeumann型境界条件は,Inglesfieldのエムベッディング法を用いて取込んだ。 3.複素エネルギーバンド構造の計算 界面をトンネルする電子波動関数は,2電極結晶の内部では,ブロッホ波とエバネッセント波の重ね合せで記述される。両者を合せた一般化ブロッホ状態は,結晶の1原子層に対応する転送行列の固有ベクトルとして計算される。また対応する固有値を複素エネルギーバンド構造という。我々は上記の計算プログラムの最初の応用として,Si,Fe,Cu,Ag等の複素エネルギーバンド構造を計算した。
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