研究概要 |
本研究の目的は,密度汎関数法の範囲の第一原理計算によって,遷移金属電極の界面構造を流れるトンネル電流,電極からの電界放出電流を解析することである。平成14年度は,ドイツ・ユーリッヒ研究センターのBlugel教授のグループ,および同研究センターのLiebsch博士のグループとの共同研究を平行して行い,基礎理論の構築,計算プログラムの開発,興味ある実際の系の解析を行った。 1.グリーン関数法によるLandauer公式の再定式化(Blugel教授のグループとの共同研究) 通常,遷移金属界面やサンドイッチ構造を流れるバリスティック電流・トンネル電流の第一原理計算には,Landauer公式が用いられる。この際,界面に入射する各一電子状態に対して,散乱問題を解き,波動関数の反射・透過係数を計算する必要があった。我々は,界面領域のグリーン関数と,バルク結晶の効果を表す境界面上のエムベッディングポテンシャルを用いると,Landauer公式が極めて簡単に表現できることを示した。これを用いてCu/Co/Cu磁性サンドイッチ構造における電子の界面での反射率を計算して,KKR法による計算結果に一致することを示した。 2.金属電極表面からの電界放出電流の計算(Liebsch博士のグループとの共同研究) 上の1で得られた公式を利用して,貴金属清浄表面(Au, Cu)からの電界放出電流を電場の関数として計算した。これは半無限結晶表面に対する,初めての自己無撞着な電界放出の計算である。バルク状態からの電流に関しては,(001)面のほうが(111)面より大きい。しかし,フェルミエネルギー付近の浅い占有表面準位からの表面電流のため,全電流は(111)面のほうが大きくなる。この表面電流にもかかわらず,全電界電流は,自由電子模型で予言されたのと同じFowler-Nordheim直線で,良く表される。
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