これまでの1次元物性物理の研究は、分子性結晶を中心とした異方性の強い3次元物質を素材としたものである。本研究では、高ミラー指数を持った結晶表面に単原子程度の周期的な1次元ステップ配列が現れることに着目し、ステップ配列による1次元電子状態、および、ステップに異種原子を吸着させたときに得られる表面物質の1次元電子特性を放射光励起角度分解光電子分光により測定・解析する。それにより、これまで分子性結晶などに限られてきた1次元物質の枠を飛躍的に拡大させ、より多様な低次元物性物理学の新展開を目指す。 本研究で重要な点の一つは、いかに質のよいステップ表面を作製するかである。今年度は、非磁性原子のステップ表面に磁性原子を1次元配列させることを目的として、Cu(755)ステップ表面を作製し、ステップによる電子状態の検出を行った。.既存の簡易型の結晶研磨機で研磨したCu試料は、Cuが軟らかいために微細な研磨傷が除去しきれず、電解研磨後、真空中で清浄化した後の低速電子回折の回折点は非常にブロードであり、ステップが乱れた表面になった。本研究費で購入した高精度の振動式研磨機では低負荷で研磨できるために傷のない試料表面が得られた。その表面の低速電子回折の回折点はシャープであり、バックグラウンドとのコントラストも十分よかった。これら2種類の試料の光電子分光測定の結果、質のよい清浄表面では、平坦表面に現れる表面準位がステップによる散乱の影響でブロード化していることが判明した。荒れた表面では、表面にできた点欠陥による電子準位の発生が検出できた。
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