1)高ミラー指数で表される単結晶ステップ表面上の1次元ステップ列に特有な1次元電子状態の発現機構を解明するためにCu(755)表面の電子状態を放射光励起角度分解光電子分光により精密に測定した。Cu(755)表面では、ステップに起因する新しい電子状態は検出されず、テラスの電子状態のみが検出された。テラスの電子状態は、平坦な(111)表面電子状態と類似しているが、対応する光電子ピークの幅が約3倍に増加している。これは、光電子の寿命がステップ表面では短くなっていることを示している。一方、これまでのNi(755)表面ではステップに固有な電子状態が明確に検出されており、両者の差は、CuとNiの電子構造の差によるものと解釈される。すなわち、フェルミ準位直下にd-電子が分布するNiで新しい電子状態が出現していることから、局在性の高いd-電子の軌道混成がステップでのs、p-性の価電子の局在性を高めていることが明らかになった。 2)清浄なCu(755)を高温でアニールすると、周期的なステップ配列を示すLEEDのダブルスポットがボヤける、あるいは、ダブルスポットの分離が悪いストリーク状の回折点になる場合が観測された。その試料の角度分解光電子スペクトルを注意深く測定すると、テラス電子状態を示す光電子ピークよりフェルミ準位側に新しいピークが検出された。このピークの分散関係は平坦であり正常なCu(755)、Cu(111)の表面電子状態のような自由電子的な分散を示していないため、この新しい電子状態はゼロ次元性、あるいは、孤立した原子的な特性を示していることがわかる。この結果は、試料を高温でアニールしたために試料表面上に格子欠陥が生じ、欠陥による局在性の高い電子状態が発生したためと考えられる。 3)非磁性金属のCu(755)上にCo原子を極微量吸着させて1次元のCo原子鎖を作ることを試みた。Coの吸着により清浄表面での表面準位が減少するに連れて、フェルミ準位直下に新しい電子状態が現れてくることを検出できた。これは吸着したCoのd-電子によるものと思われる。新しい電子準位の1次元性の解析を行っている。
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