本年度は、当初の予定通り、混合金属型ハロゲン架橋錯体の基底状態の精査な吟味を行った。従来は主として金属イオンとしてNiとPdが50%ずつ混合した場合のみを取り扱ったが、本研究ではその濃度比を100%から0%まで連続的に変化させ、その場合のハロゲン格子変位や金属電子の電荷分布を詳細に調べた。その結果、前者(正確には格子変位の2乗平均)の濃度比依存性はこの系において観測されているラマン強度(ハロゲンイオンの伸縮振動)のそれと極めて良く一致することが分かった。また、後者(正確には電荷分布の非一様性)は赤外吸収スペクトル(配位子のN-H振動)の濃度比依存性をよく説明することも分かった。これらの結果は現在のモデルにおける混合効果の取り扱いが現実系に適したものであることを示しており、さらにはこれまで筆者によって提唱されている濃度比50%における「Pdイオンも巻き込んだモット絶縁体の形成=電荷密度波(CDW)状態の消失」をより一層確からしいものにするといえる。 また今年度においては、いままでの計算では扱われていなかった平均場近似をこえる電子相関の効果についても考察を行った。方法としては量子モンテカルロ法を用い、格子変位と電子相関の両方を量子的に扱う計算を行った。その結果、濃度比50%において、やはり平均場近似に基づく計算結果と同様に上記の「Pdイオンも巻き込んだモット絶縁体」の出現を示す結果を得た。
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