本年度は計画の最終年度として、残された問題、すなわち、Pd/Ni混晶型ハロゲン架橋 金属錯体における光学励起状態に取り組んだ。状況設定としては、比較的高いエネルギーの光励起状態を想定し、電子と正孔に励起が分かれた状態からの格子緩和状態を各混晶比x(xはPd濃度)ごとに求める。そこでの計算方法は、電子状態を密度行列繰り込み群法(DMRG法)によって求め、それに従って断熱的な状況にある格子を古典的に動かして緩和させることにする。なお、緩和の格子に対する初期条件は光励起前の最安定状態(これは前年度までの計算によって求めた)を用いる。ちなみに、光励起前の状態としては、x_c〜0.7を境として0<x<x_cがモット絶縁体状態、x_c<x<1が電荷密度波(CDW)状態であることが既に前年度までの研究によって分かっている。 結果としては、まず第一に最も大きい光誘起効果はこのx_c付近で得られた。これはすなわち、この付近の混成比でシステムが最も「柔らかい」事を意味する。具体的には、x〜x_cで光励起前はほとんど見られなかったCDW状態が光励起によって急激に発達する事を見出した。定量的には一個の電子もしくは正孔が約10サイトの金属サイトをモット絶縁体の3価から2価4価に向けて変換する。従って、一個の光子が完全に電子正孔に分離したとするならば合わせて約20サイトを変換することになり、これはかなり大きな光誘起効果と言える。 なお、以上の結果はPd/Niのランダムな配置に対する統計平均に基づいている。配置によってはその光誘起効果は決して単純なものではなく、そういった金属配置に応じた特異性も興味深い。 最後に、本年度の結果は実験的にも比較的簡単に検出可能と考えられる。今後の実験的研究の進展を大いに望みたい。
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