研究概要 |
本年度は、近接場光学顕微鏡と極短パルスレーザ光を融合し、空間的・時間的に集中した極限環境での計測手段である非線形近接場光学顕微鏡の改良を引き続き行った。昨年度作製した装置について付加的なパルス幅の広がりの原因となる光ファイバーガイド部分をさらに短縮すること、また光学顕微鏡下での観察が可能なことという観点から改造することで、より汎用性の高い装置となった。一方、非線形分光を利用した半導体量子構造の物性評価については、InGaAs量子ドットにおいて室温における強励起下での単一量子ドットからの発光を詳細に調べた。その結果、励起強度に対し発光線幅が非線形に変化し、量子ドット内のキャリア間のオージェ過程による散乱の増大に起因した、均一幅増大(8から15meV程度まで)が起こることがわかった。また、バンドギヤップ・リノーマリゼーションに起因する遷移エネルギーの低エネルギーシフトが同時に起きていることを明らかにした(K.Matsuda et al.APL 83,2250(2003))。これらの情報は、量子ドットをレーザーや光増幅器などへのデバイスへ応用するという観点から重要な知見である。また、高い空間分解能(20〜30nm)での発光イメージングを利用したGaAs/A1GaAs量子ドットで波動関数イメージングの研究をさらに推し進めた。実験結果の蓄積から、励起の発光イメージは量子ドット内の励起子重心運動の波動関数に対応することが明らかとなった。また、励起子分子発光イメージは励起子のそれより一回り小さくなり、励起子と励起子分子の波動関数の重なり積分によって決まっていることがわかった。また、理論計算により励起子分子では波動関数が励起子のそれに比べ空間的に局在し、実験結果を定量的に説明できることがわかった(K.Matsuda et al.PRL 91,117401(2003))。
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