近接場光学顕微鏡では、照明光として極短パルスレーザー光を用いることで、空間的にだけでなく時間的にも集中した光電場を開口近傍に創り出す事ができ、それを使って物質中での非線形光学効果を効率良く起こせる可能性がある。そこで、この特徴を利用した新しい形態の顕微鏡(非線形近接場光学顕微鏡)を開発するとともに、半導体量子構造中での微小領域で起こる非線形的な振る舞いを調べ、以下のような成果を得た。 1.郡速度分散補償系をあらかじめ組み込んだ光学系を近接場光学顕微鏡システムに加えることで、ファイバー中でのパルス幅の広がりを抑制し、非線形近接場光学顕微鏡装置を構築することができることがわかった。 2.近接場顕微鏡ファイバープローブのテーパー構造を最適化し、押し付け法を用いて開口径20-30nmをもつプローブを作製できた。これを用いて、半導体量子構造において空間分解能30nmでの発光イメージングを行えることを示した。 3.半導体量子ドットではキャリアが狭い空間に閉じ込められているため、わずか数個のキャリアが量子ドット内の生成されただけで、非線形的な振る舞いが起こる。そこで、自己形成InGaAs量子ドットにおいて、室温における強励起下での単一量子ドットからの発光を詳細に調べ、励起強度に依存したキャリア多体効果、オージェ過程による位相緩和時間の減少、バンドギャップリノーマリゼエーションが起こることがわかった。 4.空間分解能が30nmの近接場光学顕微鏡を利用して、GaAs量子ドット中に閉じ込められた励起子の波動関数マッピングが行えることを実証した。
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