研究概要 |
第二種超伝導体の上部臨界磁場に対する第一原理計算 上部臨界磁場H_<c2>は、第二種超伝導体を特徴づける基本的物理量の一つである。にも関わらず、その定量的理解はあまり進んでいなかった。H_<c2>は、特に系の不純物濃度が低いクリムンな場合において、フェルミ面の形状に大きく依存する。このことは、1960年代半ばから知られてきた。従って、H_<c2>を定量的に理解するには、第一原理電子構造計算から得られるフェルミ面を用いた計算が最適であることが予想される。実際、このような計算は、1980年にButlerにより、立方対称のクリーンな第二種超伝導体であるNbに対して行われ、実験との非常に良い一致をみた。しかし、他の物質に対する計算は皆無で、特に、より対称性のフェルミ面や異方的エネルギーギャップを持つ場合については、計算方法も確立していなかった。そこで我々は、任意のフェルミ面・エネルギーギャップ対称性や不純物濃度を持つ物質に対して適用可能なH_<c2>方程式を導出した。この方程式は、第一原理電子構造計算から得られるフェルミ面を用いたH_<c2>の定量的計算を可能にし、H_<c2>の定量的理解を飛躍的に高めるものと期待される。さらに、この方法をNb, NbSe_2,およびMgB_2に適用し、局所密度汎関数法から得られたフェルミ面を用いてH_<c2>を計算した。その結果、実験との非當に良い定量的一致が得られた。特に、NbSe_2で観測されるT_c近傍でのH_<c2>の下凸の振る舞いが、フェルミ面の形状効果として理解できることを明らかにした。 第二種超伝導体の上部臨界磁場近傍における電気抵抗の計算 磁場中の第二種超伝導体においては、量子化された磁束(量子渦)が格子を組むことが知られている。この状態に電圧をかけると、量子渦が運動を始め、電気抵抗が発生する。このように、磁場中の第二種超伝導体における電気抵抗は、量子渦の運動が絡む複雑な現象で、その定性的・定量的理解はあまり進んでいない。実際、最も計算が簡単なH_<c2>近傍においてさえ、計算結果は不純物濃度が高い場合、すなわち、ダーティー・リミットに限られていた。今回、H_<c2>近傍における電気抵抗の計算を、全ての不純物濃度について初めて系統的に行った。そして、低温における電気抵抗の磁場依存性が、ダーティー・リミットの下凸曲線からクリーン・リミットの上凸曲線へと変化していくことを理論的に予言した。
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