ギガヘルツ帯の超音波計測は、マイクロ波技術と超音波技術を兼ね備えたものであり、これまでほとんど物性研究に利用されていない。本研究計画では、ギガヘルツ超音波の励起と受信を目指して、装置の試作を行ってきた。無酸素銅でQ値が高いリエントラント空胴共振器を製作し、電場が最大になる場所に水晶、或いは、LiNbO_3のロッドを挿入して、超音波シグナルの励起・受信を試みた。度重なるテストから、2個のリエントラント空胴共振器を対向させたとき、共振周波数が温度の低下によりずれ始め、低温での調整が求められた。我々は、室温フランジから、3種類の調整機構を導入して、高いQ値を保った状態で、共振周波数を同調する機構を開発することに成功した。ここに至るには、相当の労力と工夫が必要であった。2個の共振器の共振周波数は、約9GHzとなり、数kHzの精度で同調でるようにした。また、共振周波数は、30K以下では温度変化がなかった。本年度新たに、計測システムの受信側にPINダイオードスイッチを導入して、ドライブパルスの影響を取り除いた。また、検出感度の向上をねらい、スーパーヘテロダイン検波を行えるようにした。中間周波は任意に選べるが、60MHz程度にして、現有の超音波装置と連動できるようにした。これにより、ダイナミックレンジが100dB程度まで拡大でき、最小検出パワーも-80dBmとなった。その結果、長さ1cmのXカットの水晶ロッド(φ2mm)中に縦波を励起することに成功した。観測されたエコーシグナルは、第1、第2エコーのみであったが、吸収係数の温度変化は、T^3に比例しており、縦波フォノン散乱に起因することを明らかにした。
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