研究概要 |
バナジウムスピネルAV_2O_4 (A=Zn,Mg,Ca)における2つの相転移、40K付近の磁気転移と50K付近の構造転移のメカニズムを考察した。磁気的イオンであるバナジウムイオンの作るパイクロア格子は強い幾何学的フラストレーションを持ち、磁気的相互作用のみで低温の磁気秩序を説明することは不可能である。そこで、バナジウムイオンの軌道自由度を取り入れ、低温におけるスピン軌道有効モデルを構築し、それを用いることによって2つの相転移を説明することを試みた。その結果。50Kの構造転移においては、格子歪みに誘起された軌道秩序が出現することを発見した。この軌道秩序がスピンのフラストレーション効果を部分的に解消し、その結果、更に低温で磁気秩序が可能となることが判った。理論解析が予言する安定な磁気構造は中性子実験によって決定されたものと一致している。更に詳細な温度変化をモンテ・カルロシミュレーションによって計算し、実験結果と半定量的に一致することを示した。 フラストレーションを持つ遍歴電子系の代表として、カゴメ格子上の単一バンドハバード模型を考え、強相関効果をFLEX近似によって研究した。その結果、フラストレーション効果が大きい時には、磁気的不安定性が大幅に抑制され、金属相が安定化されることが判った。更に準粒子の性質を1電子グリーン関数のスペクトル関数から求め、フラストレーションによって準粒子のコヒーレンスが波数空間で等方的になるように回復することを見出した。
|