研究概要 |
研究代表者らはシャストリーサザーランド模型とトポロジカルに等価な二次元直交ダイマー物質SrCu_2(BO_3)_2について,特殊な合成方法,特に低温合成の手法を用いることによって相互作用の値を変化させ理論で予想されているダイマー相近傍の色々な相を観測すること,またはキャリアーの注入を試みた.特に低温でのトポタクティック合成に力をいれた.たとえば,NaやRbなどを試料とともに石英管に真空封入し200度程度の温度で熱処理を施したが,目的の物質を合成することができなかった.しかし,ごく最近になって水素の吸収が可能であることがわかってきた.水素の導入により,価数が変わることが期待されることから,この系の研究が今後大きく発展する可能性が高い.現在,発表準備中である.以前からすすめている母体SrCu_2(BO_3)_2の物性の解明は,ダイマースピン一重項相から他の相への圧力誘起相転移の兆候,磁化プラトーにおけるスピン超格子構造の決定,DM相互作用と交替gテンソルが基底状態に与える影響,磁化プラトー前後での相転移の描像の理解など大きく進んだ.またシャストリーサザーランド模型と同様に二次元正方格子を基調とした新規フラストレーション系物質の開発を進めた.その結果,低温でのイオン交換法によって(CuCl)Ca_2Ta_3O_<10>などの合成に成功した.Cuが二次元正方格子を作っているが,もし次近接相互作用が最近接相互作用にちかいならば二次元J_1-J_2模型にマップできると期待できる.事実,CuがFeの物質ではフラストレーションを示唆する逐次相転移が観測させた.これらの物質は非磁性体(たとえばRbCa_2Ta_3O_<10>)を出発物質として合成されるため,今後,多くの磁性体が同様の手法で合成できると期待される.J_1-J_2模型の物性を理解することはとシャストリーサザーランド模型を理解する上でも重要である.
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