研究概要 |
研究代表者らが発見した,シャストリーサザーランド模型とトポロジカルに等価な2次元直交ダイマー銅硼酸化物SrCu_2(BO_3)_2について,その幾何学の特異性に関連した物性を明らかにすること,また化学的または物理的な手法により基底状態を変化させることを目的とし,研究を進めてきた.その結果,圧力が非常に有効なパラメータであることが明らかとなった.10kbarほどの圧力でスピンギャップの大きさが半分になること,またそれ以上の圧力で相分離を示す傾向があることがわかってきた。理論的にはいくつかの相がスピンギャップ相の近傍にあると予言されていることが実験的に実証されたことになる.また研究代表者が育成した良質単結晶を利用した強磁場NMR測定により1/8プラトー相の磁気構造または相転移について多くのことが明らかとなった.プラトー相の磁気構造については従来されていた単純な理論模型では不十分であるなど,その後の活発な議論を呼び起こした。これらの結果は,サイエンス誌に掲載された.SrCu_2(BO_3)_2はS=1/2の量子スピン系であったが,いわば古典的シャストリーサザーランド模型といえるNd_2BaZnO_5の合成に成功し,中性子回折実験により磁気構造を決定した.その磁気構造は最近接相互作用と次近接相互作用のみを考える模型では説明できず,次々近接相互作用の導入が必要であることがわかった.またシャストリーサザーランド模型のように二次元正方格子を基調とした模型の研究についても進めた.特にイオン交換法という低温合成法を駆使して,(CuCl)Ca_2Ta_3O_<10>や(FeCl)Ca_2Ta_3O_<10>など多くの新物質を合成し,それらが低次元磁性体特有の新奇な磁性を示すことを見いだした.
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