研究概要 |
従来,電子フォノン系でのポーラロン効果や超伝導などは典型的なモデル(フレーリッヒ模型やホルスタイン模型)に基づいて理解されてきた.しかし,ヤーン・テラー結晶における電子フォノン複合系では関与する状態の縮退による内部構造のため,クォーク・グルオン系での閉じ込め問題に似た新しい様相を示す.本研究では,典型的なモデルと比較しながらヤーン・テラー・ポーラロンの特徴を吟味し,それに基づいて超伝導を議論する. さて,本年度は電子フォノン結合定数αが小さい極限から出発してグリーン関数法による解析を進めた.そして,αの最低次ではミグダル近似による通常の電子フォノン結合系での理論と同じだが,次の次数ではそれとは異なり,バーテックス補正が正確にゼロになる.この意味でヤーン・テラー系ではエリアシュバーグ理論の適用範囲はかなり広いことになる. ところで,本年度,バトログらはヤーン・テラー系であるC_<60>分子を電界効果トランジスター構造に組み込み,特にCHB_<r3>で分子間隔を拡げたものに正孔を注入した場合,117Kの転移温度を持つ超伝導を見出した.この事実とヤーン・テラー系での超伝導に関する私のこれ迄の結論から言えば,通常の電子フォノン系でも適当な条件下ではT_cが100Kを越しうることを示唆する. 因みに,フラーレンに電子注入した場合,ハバード・ホルスタイン模型に基づいて電子フォノン相互作用による電子間引力と電子間の直接のクーロン斥力がほぼ釣り合うという状況下でのBCS超伝導体という見方で定量的にも正しいT_cを得ていたが,正孔注入の場合,αが1.5倍大きくなるとして同じ計算をすると実験事実をよく再現することを見出した. 来年度はこの結果の意味するところをより深く考察し,室温超伝導への道を模索すると同時に,ヤーン・テラー系の性質も取り込んだ理論を構築する予定である.
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