YbB_<12>はいわゆる近藤絶縁体の典型例として知られている。近年広島大学の伊賀らによって良質の大型単結晶の育成が可能になって以来、熱・磁気的測定、輸送現象、分光学的測定、中性子散乱などの測定が進んできた。本研究では純粋なYbB_<12>と不純物としてLuを1%Ybサイトに置換した単結晶試料について、Yb(イットリビウム)、B(ホウ素)、Lu(ルテチウム)各原子核について核磁気共鳴の測定を行った。Yb核の核磁気緩和率は熱活性化型の温度依存性を示し、f-P混成ギャップ、あるいは近藤1重項形成によって磁気励起にギャップが生じていることが明らかになった。一方B核の核磁気緩和率については、高温部分はYb核と同様な熱活性型の温度依存性を示すが、20Kより低温で増大し6K付近でブロードなピークを示した。この異常な振る舞いは空間的に希薄に存在する何らかの不純物の周りに局在モーメントが誘起された結果出ることが示された。近藤絶縁体においては、非磁性不純物、即ち、f電子の欠損を導入することによっても、その周りに局在モーメントが誘起される可能性が理論的に指摘されており、今回このような不純物モーメントが実験的に観測されたと考えられる。このことをさらに確認するために非磁性元素であるLuを1%ドープした試料について、BとLu核の核磁気緩和率の比較を行った。両者とも同様な温度依存性を示したが、Luの方が約10倍大きな値を示した。このことから局在モーメントはLuサイトの近くに形成されていることが明らかになった。さらにB核の緩和率に30K付近で非常に鋭いピークが見られたが、これはYb核とB核の共鳴周波数がこの温度で等しくなったために両者の間で交叉緩和が起こったためであると考えられる。この結果はB核の測定を通じてYb核の共鳴を間接的に検出する興味深い方法を提起した。 一方CaB6にLaを微量ドープした物質は、遷移金属元素などの磁性元素を含まないにも関わらず、600Kという高温で強磁性転移を示すことが報告されて注目されているが、磁化は極端に小さく、強磁性状態がこの物質に本質的なものか不純物に起因するものか解明されていない。物質固有の磁化があるとすれば、スピン密度は主にホウ素の2p軌道にあると考えられるので、ホウ素核のNMRにより内部磁場を精密に測定すれば検証できるはずである。本研究ではLaを0.5%ドープしたCaB6の単結晶試料についてホウ素核の内部磁場の異方性を高精度で測定した。5個の試料のうち、2個の試料で有限な内部磁場が観測され、固有の強磁性磁化が存在することが示されたが、試料全体の磁化とはよく対応せず、不均一な磁化と共存していることが示唆された。
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