マクロスケールでの摩擦法則はよく知られた物理法則である。しかし、原子スケールでの摩擦力の性質はよく理解されているとは言いがたい。近年、原子問力顕微鏡や水晶マイクロバランス等の新しい実験技術の開発によって、原子スケールの摩擦ではマクロスケールとは異なった振る舞いが観察されている。物理吸着膜に関して、Krimらは(J.Krim et al. PRL76(1996)803)、液体N_2温度でマイクロバランスを用いた測定を行い、貴金属の基板上のK_r原子単層膜の界面摩擦を報告している。本申請の研究は、おもにグラファイト基板上のヘリウム吸着膜を対象とし、.これまで報告された金属基板の界面摩擦との比較、また他の希ガス原子の吸着膜の比較から界面摩擦の性質を明らかにしょうとするものである。測定法は高感度にスリップ現象を観測できる水晶マイクロバランス(QCM)を採用した。 これまでの研究で透過法を用いたQCM測定システムを構築し、初めてQCMにグラファイト基板を圧着する技術を開発した。実験により、QCM上のグラファイト基板でも1.5K付近で^4H_e薄膜の超流動転移を観測した。このとき観測された超流動の割合は吸着膜の液相に対して数10%の割合であった。これは、ねじれ振り子の測定によるグラファイト基板上の超流動の観測される割合が1%であるのに対し大きな値である。また、固相膜と考えられる面密度では、固相膜のスリップと考えられる共振振動数が増加が観測された。これら、QCM上のグラファイト基板のスリップ現象の観測は、物理吸着膜のすべり摩擦の研究に重要な知見を与えるものと考えられる。
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