独自に開発した極めて高感度のねじれ共振器を用いて転位の運動を精密に測定し、固体^3Heの融解する直前の状態を研究した。 この共振器により、10のマイナス8乗に至る極めて微小な歪率(応力に比例)から10のマイナス5乗までの広い範囲で、固体^3Heの剛性率と内部摩擦によるエネルギー損失を、同時に精密に求めることができた。そして転位が乗り越えるべきパイエルスポテンシャルの大きさのモル体積(密度の逆数)依存性を測定した。固体の融点近傍では極めて不安定な状態が理論的に予想されている。通常の固体の融点近傍では、温度上昇に伴う熱的揺らぎが大きく、本質的な揺らぎがマスクされていると考えられる。しかし固体^3Heでは量子効果のため、あるモル体積の範囲では温度低下につれて融解するという大きな特徴があり、これを利用して熱的揺らぎのない融解現象を研究した。 一般に固体の融解は一次相転移であるので、平衡状態では前駆現象は期待できない。しかし微少な応力を加えた非平衡状態では、固体中に融解の前駆的な揺らぎが存在する可能性が残される。本実験で測定された振れ剛性率は横波に対応し、液体には存在しない固体に特有な物理量である。融点近傍において、この捩れ剛性率の異常が観測され、「熱的揺らぎ」ではない本質的な融解の前駆現象を実証した。
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