1.Fe/Gd金属人工格子中のGd層の磁気構造を、Gd L3吸収端共鳴X線磁気回折(RXMD)を用いて決定した。補償温度(約120K)以上では、決定された磁気構造は、単純な理論モデルとよく一致する。この磁気構造に基づいて、測定されたM-H曲線を計算で再現できる。補償温度以下の磁気構造は、単純な理論モデルでは説明できず、Gd層の磁気異方性が磁気構造に影響を与えていることを示している。 2.Fe/Dy金属人工格子のDy層の磁気構造を、Dy L3吸収端RXMDを用いて決定した。Dy層の磁気構造は、50-300Kの温度範囲で、Fe/Gd金属人工格子におけるtwisted状態のGd層の磁気構造に類似である。この磁気構造の起源はGd層と異なり、バルクDyが持つスクリュータイプの磁気相互作用によると考えられる。 3.強磁性層によって非磁性層に誘起される磁気分極の基本的な挙動を調べるため、Gd/Cu金属人工格子を試料として、Gd L3およびCu K吸収端X線磁気円二色性(XMCD)を低温からGd層のキュリー温度の範囲で測定した。XMCDに関係するGd層(5d)磁気分極、Cu層(4p)磁気分極の温度変化は、それぞれバルク磁化(主にGd 4f)に比例した。比例係数はCu膜厚に依存した。これは、Gd層磁化が同じでもCu膜厚が異なるとCu層に誘起される全磁気モーメントが異なることを示している。 4.巨大磁気抵抗(GMR)効果を示すCo/Cu試料(AF試料)とGMR効果を示さない試料(F試料)について、CoおよびCu K吸収端XMCDの磁場依存性を測定した。Co XMCD強度を揃えて比較すると、F試料のCu全磁気分極は、AF試料のそれより大きい。AF試料はCu層の強磁性的な磁気分極を抑制する傾向を持つことが示唆された。 5.非磁性Cu層内の微少な誘起磁気分極分布をRXMD法で測定するため、高計数率ディテクタを用いた測定システムを開発している。(I(+) -I(-))/(I(+) + I(-))~ 0.001程度の大きさの磁気散乱ブラッグピークの検出に成功した。
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