超低温度核磁気共鳴映像法(MRI)の本格的応用として反強磁性固体ヘリウム3の磁区構造の可視化を行った。反強磁性相のスピンダイナミックス特有の非線形性を避けるため、微少角励起パルスによる自由誘導減衰(FID)のみを用いたMRIで実用的な時間で反強磁性固体ヘリウム3の磁区画像を取得できることを実証した。この仕事では世界初のマイクロケルビン領域でのMRI画像を得たことも特筆されるべきである。この成果として永年未解明のままであった反強磁性相における磁壁の配位が(110)面であり、その両側の磁区の異方軸(100)は磁壁と45度方向に配位する二種類のみであることを特定することができた。またスピン構造の対称性の異なった擬強磁性相との間を磁場掃引によって往復させたとき相転移によっていったん消失した反強磁性相の磁区構造が再び回復するメモリー効果を確認することができた。このメモリー効果の原因についてはまだ究明中であるが、磁気異方性に伴う格子歪みが有力な原因ではないかとみている。また同時に超流動ヘリウム3-B相中での固体ヘリウム3の結晶成長メカニズムに付いての研究を行った。超流動ヘリウム4中での固体ヘリウム4の結晶成長のボトルネックメカニズムとは異なり、ヘリウム3の場合は両相の大きな磁化の違いに起因する核スピンの輸送が重要な役割を果たしていることがわかった。
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