研究概要 |
(1)ペロフスカイト型遷移金属酸化物のスピンと軌道状態 遷移金属酸化物の中で、3d電子が結晶場によって別れたxy, yz, zx軌道を部分的に占有しているTi酸化物において、スピンと軌道状態の関係を議論した。まず、強磁性体YTiO3において、いわゆるG-typeとC-typeヤーン・テラー変形に対応する軌道秩序それぞれの相対的安定性を、Tiイオン間の電子移動に関する4次摂動に基づき議論した。その結果、4次摂動項にC-typeを安定化させる項があることを見い出した。次に、反強磁性体LaTiO3において、スピン軌道相互作用の固有状態からスタートしてTiイオン間の電子移動に関する摂動計算を行った。それにより、Tiの磁気モーメントに軌道磁気モーメントが大きく寄与すること、軌道縮重に伴う揺らぎが大きい系であることを指摘した。 (2)V2O3のスピンと軌道状態および共鳴X線散乱とX線吸収線二色性 歴史的に極めて議論の多いV2O3において、最近共鳴X線散乱に対し、軌道秩序の存在を仮定した解釈がなされている。この研究では、そうではなく、スピンに伴う軌道磁気モーメントの存在と格子変形を考慮することにより、実数の波動関数で記述される軌道の秩序がなくても実験が説明できることを示した。またこの立場からこの系の金属絶縁体転移の機構を考える上で、Vイオン対のtiltingを取り入れることが重要であること、絶縁相での反強磁性常磁性転移は、磁気モーメントの規則不規則転移だけでなくVイオン対のtiltingの方向のそれも伴うことを有効スピン模型を用いたモンテカルロシミュレーションにより示した。さらに、予想されるV2p内殻X線吸収線二色性を議論した。これらの議論を通じて、この系は、いわゆるハバード模型をもとに議論されるモット・ハバード金属絶縁体転移が起こっている系ではないことを指摘した。
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