1.Prをベースとする化合物としては初めての重い電子状態を示す充填スクッテルダイト化合物PrFe_4P_<12>の電子状態を各種の実験手法により調べ、以下のことを明らかにした。 (1)低温低磁場領域で現れる異常な秩序状態が基本的に非磁性であることを、中性子散乱、μSR、核比熱の実験により示し、四極子秩序である可能性が高いことを指摘した。 (2)本系のLa部分置換効果を調べた。置換により、上記の秩序状態は急速に破壊され、零磁場でも重い電子状態が回復することがわかった。このことは、四極子秩序と重い電子状態が互いに競合していることを明白に示している。 2.2002年に見出されたPr化合物としては初めての重い電子超伝導体PrOs_4Sb_<12>において、以下のことを明らかにした。 (1)超伝導相の基本物性:比熱測定から、超伝導転移に二段の異常が存在することを確認し、その磁場温度相図を明らかにした。超伝導状態で内場が発生している証拠をμSR法により得た。このことは、時間反転対称性が破れた超伝導状態(金属系超伝導体では初めて)が実現していることを示している。 (2)超伝導発現の背景にある常伝導相の異常:約4テスラ以上の高磁場下で、磁場誘起の新たな秩序相が存在していることを比熱測定により見出した。可能な結晶場モデルを絞り込み、一重項基底状態と磁気的三重項励起状態の組合わせが、現時点では、もっとも合理的に各種物理量を説明することと、このモデルに基づきながら、磁場中で期待される準位交差近傍での四極子自由度の凍結が、この磁場誘起秩序相の起源であることを主張した。その後、秩序相内で中性子散乱実験を行い、観測された磁気構造が、上記のモデルでうまく記述できることを示した。このことは、四極子自由度の揺らぎが超伝導の背景に存在し、この揺らぎが、この系での重い準粒子形成や、クーパー対形成に重要な役割を果している可能性を強く示唆しており、今後実験的に検証していく必要がある。
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