電子スピン共鳴によるスピンギャップ直接観測の理論的研究

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13640371
• 研究機関: 東北大学
• 研究代表者: 坂井 徹 東北大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (60235116)
• キーワード: スピンギャップ / 低次元系 / 量子スピン系 / 強相関電子系 / 磁化プラトー / 電子スピン共鳴

研究概要

反強磁性的交換相互作用を持つ低次元磁性体では、強い量子ゆらぎのために低温でも秩序化せず、基底一重項状態の上にスピンギャップと呼ばれるエネルギーギャップを生じる場合がある。このギャップは、基底一重項状態と励起三重項状態の間にあるため、スピンの保存則からこのギャップに相当する電子スピン共鳴は禁制遷移となって観測されないはずである。しかし最近、いくつかの著名なスピンギャップ系で、このギャップに相当する直接遷移が電子スピン共鳴で観測された。本研究では、その禁制遷移が起きるメカニズムが、磁性イオンのg-テンソルが交代していることによる有効交代磁場、及び結晶構造の非対称性からくるジャロシンスキー守谷相互作用に起因することを明らかにした。さらに、各物質でどちらのメカニズムにより直接遷移が観測されるのかを、実験結果から明らかにするため、両相互作用が独立に働いている場合の、角度に依存した電子スピン共鳴の選択則を理論的に導いた。
一方、最近になってこのスピンギャップが強磁場によって誘起される場合があることが、理論的にも実験的にも明らかにされた。この磁場誘起ギャップは、強磁場磁化過程における磁化曲線のプラトーとして観測される。この磁化プラトーが観測された物質のうち、有機スピン1ラダー系BIP-TENOに着目し、そのメカニズムを理論的に解析した。その結果、遠距離に及ぶ反強磁性相互作用によるフラストレーションの効果により、スピン構造の並進対称性が自発的に破れてギャップを生じることが明らかとなった。さらに、このフラストレーションの効果に加えて、格子ひずみの効果も重要であることがわかった。これらの成果は、2003年10月にパリで開催された日仏シンポジウムにおいて招待講演として発表した。

研究成果

• [文献書誌] T.Sakai: "Direct Observation of Spin Gaps in Electron Spin Resonance"Journal of Physical Society of Japan Supplement. 72. 53-60 (2003)
• [文献書誌] T.Sakai: "Charge Stripes and four-spin exchange interaction in high-Tc cuprates"Acta Physica Polonica B. 34. 423-426 (2003)
• [文献書誌] T.Sakai et al.: "Magnetization plateaus in S=1 spin ladder"Phyisica Status Solidi. 236. 429-432 (2003)
• [文献書誌] K.Okamoto, T.Sakai: "Spin-Peierls mechanism for the non-trivial magnetization plateaux in two-leg spin ladders"Physica B. 329-333. 1207-1208 (2003)
• [文献書誌] T.Sakai et al.: "Magnetization plateaux in S=1 Organic Spin Ladder BIP-TENO"Physica B. 329-333. 1203-1204 (2003)
• [文献書誌] T.Sakai: "Investigation on charge stripe formation in an extended t-J model"Journal of Physics A : Mathematical and General. 36. 9303-9310 (2003)
• [文献書誌] T.Sakai: "Field-Induced Order in Anisotropic Haldane Spin Chain"Physica B. 345. 128-131 (2004)
• [文献書誌] T.Sakal, K.Okamoto, K.Okunishi, M.Sato: "Anomalous magnetization process in frustrated spin ladders"Journal of Physics : Condensed Matter. 16. 785-789 (2004)
• [文献書誌] T.Sakai: "Finite Temperature Simulation Based on Lanczos Algorithm for Low-Dimensional Quantum Systems"Computer Simulation Studies in Condensed Matter Physics. 14(掲載予定). (2004)
• [文献書誌] T.Sakai: "Field-Induced Spin Liquids and Orders in Quasi-1D Gapped Systems"Journal of Magnetism and Magnetic Materials. (掲載予定). (2004)
• [文献書誌] T.Sakai et al.: "Magnetization plateaus and cusp in S=1 spin ladder"Physica B. (掲載予定). (2004)