液体に圧力を加えて体積を減少させると、原子間の距離が縮まり、相互作用が変化する。とくに、相互作用に共有結合性をもつ液体金属では、相互作用の距離依存性が著しい。そこで、本研究では種々のイオン性を持つIII-V化合物、II-VI化合物について液体の構造の圧力変化を調べ、結合のイオン性が液体の構造の圧力変化に及ぼす効果を調べることを目的とし、放射光を用いた高温高圧力下のX線回折実験を行った。 結合に共有結合性とイオン性をもつ液体GaSbでは、加圧により第1ピークとサブピークの位置はQの大きい側へ移動し、第2ピークと第3ピーク位置はほとんど変化しなかった。2体分布関数g(r)の第1ピーク位置は加圧による体積収縮にもかかわらず、ほぼ一定であり、第2ピーク位置はrの小さい側へ移動した。また、4Å附近のハンプは約11GPaで消失した。液体の局所構造は、β-スズ型の結晶を歪ませたものと、単純体心正方構造を歪ませたものを混合したものでg(r)を再現でき、加圧により単純体心正方構造的な部分の割合が増大した。これらのことから、液体GaSbの局所構造は、加圧により一様に収縮するのではなくて、より配位数の高い構造へ変化させながら収縮していくことがわかった。結合のイオン性がGaSbよりもやや大きいInSbでは、約10GPaにおいて液体の収縮機構の変化が見られた。10GPaまでは2体分布関数g(r)の第1ピークの位置は加圧によってもほとんど変化せず、第2ピークと第3ピークはそれぞれ異なる圧力係数で小さくなった。一方、10GPa以上ではこれら3つのピーク位置はほぼ体積の1/3乗に比例して小さくなった。これらの結果は液体の収縮機構が非一様収縮から一様収縮へと変化することを示している。また10GPa以上の圧力領域の液体の構造は、低圧相結晶や高圧相結晶の局所構造のいずれとも異なることがわかった。
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