研究概要 |
本研究では、準結晶に対する現実的な構造模型と金属間化合物の性質をよく記述する原子間相互作用ポテンシャルをもとに、様々な変形によるエネルギー変化を見積もることにより、弾性定数やフェイゾンの剛性率を計算したい。本年度はまず数値データとして与えられた原子間ポテンシャルを使って結晶の原子位置を最適化し、単位胞の変形(弾性変形)に伴うエネルギー変化を計算するコードをテストすることから始めた。平衡点近傍でエネルギーは弾性歪みの2次関数として振舞うはずであるが、この振る舞いを得るには離散点で与えられた原子間ポテンシャルの数値データを正しく内挿することが重要であることがわかった。また第一原理擬ポテンシャルから原子間ポテンシャルの数値データを生成した。ところで準結晶におけるフェイゾンの自由度は原子の微少変位でなく有限の大きさをもった原子位置のジャンプとみることができる。したがって剛性率を計算する際に、このようなジャンプも考慮すべきであるという指摘がある。現実的な原子間ポテンシャルを使い、このようなジャンプも考慮した準結晶の微視的構造模型と研究しているコーネル大学のグループと、共同研究も視野に入れて議論を続けている。 上記の研究と並行して、昨年から今年にかけて相次いで発見されたCd-Yb系、Zn-Mg-Sc系準結晶の近似結晶にあたる立方晶の電子状態を第一原理計算により研究した。その結果、これらの系ではCd,Znのp軌道とYb,Scの(ほとんど占有されていない)d軌道との間の混成が電子状態密度に現れる擬ギャップの形成と合金相の安定化に重要な働きをしていることがわかった。このような近似結晶の電子構造の研究は、本計画の目的である準結晶・結晶変態の現象論に現れたパラメータの微視的評価に直接つながるものではないが、多様な合金系の安定化のメカニズムを探ることは重要と考えている。
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