研究概要 |
本申請研究の目的は,高温超伝導体母物質および2価の銅を含む反強磁性絶縁体の単結晶の誘電率の温度依存性・異方性・周波数依存性を精密に測定し,母物質の誘電応答の特徴を実験的に明らかにするものである。本年度は研究の最終年度であり,これまでの研究を総括し,残された問題点と新しい発見について述べる。 Bi2Sr2CaCu2O8系の高温超伝導体母物質のなかで最も乱れの少ない系は,SrサイトをLaで部分置換したBi2(Sr,La)2CaCu2O8である。この物質は,本研究遂行の途上で合成に成功した物質であり,2002年度の研究報告で報告した。この系の面間誘電率を100〜1MHzの誘電率を4.2〜300Kまで測定した。得られた誘電率はデバイの誘電緩和の式で表されることを見出した。これはこれまで得た結果と矛盾しない。 高温超伝導体母物質と同じく,電荷密度が空間的に不均一になると考えられる有機導体θ-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4の誘電応答を調べ,高温超伝導体と比較した。この系もデバイの誘電緩和で表される誘電分散を示す。驚くべきことに,この系では,直流バイアス印加によって巨大な非線形応答が見出された。この結果をまとめた論文は,Journal of Physical Society of Japanの2004年12月号のNews&Comments(注目論文)に選ばれた。今後,新しい物性科学の方向を暗示しているようで興味深い。
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