研究概要 |
本研究課題は一次元有機導体で見られる競合電子相の起源にせまるため,微視的な観点からのアプローチを行う.SDW相および常磁性絶縁相の電荷状態と磁気構造に注目する.最近,TMTTF系塩の幾つかの塩に関して,常磁性絶縁相で電荷分離状転移の可能性が示唆されている.この電荷分離状態と不整合SDWにおけるsub-phaseの関係が注目され,最近この起源として電荷変調の変化を由来とする理論的考察が為されている.申請当初に念頭に置いていたEDT-TTF系だけでなく,TMTTF系の塩についても研究を行った. 平成13年度はTMTTF分子同位体置換試料を作成し,NMR測定系の整備・測定を行った. (1)多核NMR測定システムの構築 本年度は,多核測定システムに耐えうるNMRプローブ作成に重点を置いた.本研究課題では、単結晶試料で多核(H, D, C, Se, Br)での測定を行うことを目標とした.多核NMR測定を行うために,低周波での実験が必要である.送信部の耐圧を高くするために,プローブ部分を常時超高真空にする.設備備品費でそのための真空排気セットを導入した. (2)13C置換TMTTF分子の合成,NMR測定 伝導電子密度の高い分子中央二重結合部のC原子をNMR測定にかかる安定同位体13Cに置換した分子を合成した.核スピン双極子相互作用による吸収線の分裂がないため,極めて精度良くサイトごとの電荷密度・磁気モーメントなどの諸量を見積もることができる.同位体置換を行った(TMTTF)2Brについて13C-NMR測定を行い,SDW転移頂上で電荷が不均一になっていることを見いだした.また,電場勾配に関する情報が得られるBrについても測定を行い,電荷揺らぎに由来すると思われる現象を観測できた.
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