研究概要 |
本研究課題では,微視的な観点による電子物性研究を行い,一次元有機導体における競合電子相の起源にせまる.特に常磁性絶縁相およびSDW相の電荷・スピン構造に注目する,最近,TMTTF系塩の幾つかの塩に関して,常磁性絶縁相で電荷分離状転移の可能性が示唆されている.この電荷分離状態と不整合SDWにおけるsub-phaseの関係が注目され,最近この起源として電荷変調の変化を由来とする理論的考察が為されている.申請当初に念頭に置いていたEDT-TTF系だけでなく,世界的に関心が持たれているTMTTF系の塩についても研究を行った. 平成14年度は,特にTMTTF系に注目し,一連の塩に関してESR測定ならびに13C-NMR測定を行い,その研究成果発表を行った.また,EDT-TTF系の13C同位体置換試料作成も行った. (1)ESRによる電荷配列状態の考察 低温絶縁相では電子は局在しているのでESR線幅は磁気双極子相互作用が支配的である.TMTTF系のESR線幅の異方性から,電荷配列パターンが,アニオンの形状により大きく3つのグループに分類できることがわかった.さらに,電荷電荷分離状態の起源ならびに,低温基底状態(スピンパイエルス・反強磁性・SDW)の発現機構について考察を行っている. (2)選択的同位体置換試料による13C-NMR測定 伝導電子密度の高い分子中央二重結合部のC原子をNMR測定にかかる安定同位体13Cに置換したTMTTF分子を合成し,13C-NMR測定を行った.(TMTTF)2Brおよび(TMTTF)2SCNのNMR吸収線およびスピン-格子緩和率の考察から,常磁性絶縁相において電荷分離転移が存在することがわかった。電荷秩序形成における電荷のダイナミックスについても知見が得られた.
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