研究概要 |
本研究課題では,微視的な観点による電子物性研究を行い,一次元有機導体における競合電子相の起源に関する知見を得た.申請直後から,TMTTF系塩の幾つかの塩に関して,常磁性絶縁相で電荷分離状転移の可能性が示唆されている.この電荷分離状態と不整合SDWにおけるsub-phaseの関係が注目され,この起源として電荷変調の変化を由来とする理論的考察が為されている.申請当初に念頭に置いていたEDT-TTF系だけでなく,世界的に関心が持たれているTMTTF系の塩についても研究を行った. 平成15年度は,昨年からのTMTTF系に対するESR測定ならびに^<13>C NMR測定の研究成果をまとめ発表を行った.さらに種々の配列をもった電荷秩序状態に対する知見を得るために一連の塩に対して測定を行った. (1)電荷分離状態におけるスピンダイナミックス 伝導電子密度の高い分子中央二重結合部のC原子をNMR測定にかかる安定同位体^<13>Cに置換したTMTTF分子に対して,113C NMR測定を行った.(TMTTF)_2SCNのNMR吸収線およびスピン-格子緩和率の考祭から電荷分離状態を見いだすとともに,アニオン秩序では説明できない純電子的な電荷揺らぎが存在することを明らかにした(Phys.Rev.B投稿中) (2)スピンパイエルス-反強磁性相境界における電荷の再配列 常磁性状態では同じ電荷電分離状態をとるものの異なった基底状態をとる(TMTTF)_2MF_6系について,基底状態辺近での電荷配列をESR線幅の異方性から考察を行った.その結果,境界近傍では,電荷分離とスピン一重項の共存があること,境界から離れると電荷の再配列がおこり通常のスピンパイエルス状態が安定することが分かった(Synth.Met.投稿中). また本課題の成果を受け,国内外の研究者と,TMTTF塩およびTMTSF塩の絶縁状態におけるナローバンドノイズ・比熱・中性散乱測定等の共同研究を開始した.ナローバンドノイズ測定の結果から,逐次SDW相転移に伴い密度波状態のダイナミクスが顕著に変わることが見いだされた(Phys.Rev.B投稿中).
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