研究概要 |
本課題研究の目的は、核壊変後の^<57>Feイオンの磁気的状態について、従来のドップラー効果を利用せずに、強磁場下の「磁場挿引法」により、試料に含まれる極微量のFeイオンのメスバウアースペクトルを観察する新しい測定手法を開発することにある。通常、メスバウアー分光法ではγ線共鳴吸収を起こすため、線源と吸収体の間のごくわずかなエネルギー差をメスバウアー駆動装置によるドップラー運動で調節する。しかし、γ線放出の際、原子核のエネルギー準位をわずかにずらすことでも同じ効果が得られるはずで、強磁場中に線源あるいは吸収体のいずれかを保持し、ゼーマン分裂を起こすことで原子核の準位を変化させることは可能と考えた。 本年度は、以下の予備実験1および2を行なった。 1.γ線検出器の作製と^<57>Coメスバウアー線源を用いた性能評価 メスバウアーγ線の検出には、高い検出効率を有するガス充填型共鳴検出器(並行平板アバランチェ検出器、PPAC)を使用した。PPACは、メスバウアー効果が起こった時のみに放出される内部転換電子を検出するので、非メスバウアーγ線による高バックグラウンド下でも優れたS/N比のスペクトルが測定できる。^<57>Fe富化ステンレス箔を溶解・庄延し、PPACを組み立ててその性能試験を行なった。カウンターガスの庄力、流量、平板間の距離、印可電圧をパラメータとして、高いS/N比でかつ高い計数効率となる最適動作条件を明らかにした(T. Saito, et al., J. Radioanal. Nucl. Chem., in press)。 2.超電導磁石付クライオスタットの動作試験 超電導クライオスタットの測定温度領域とその温度における磁場の大きさを定量した。通常の三角波に対応する磁場掃引でのdwell timeの設定と測定系の開発を行なった。 次年度では、可変磁場における掃引法でメスバウアースペクトルの観測を行い、超微量の孤立Faイオンの磁気的状態に関する知見を得るとともに、短寿命不安定核^57<Mn>を用いた実験に応用する。
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