磁性イオンのサイトが正四面体の一つの辺を押して平面にしたバタフライ構造の頂点にあるニッケルの四核錯体化合物の大きな単結晶試料を合成し、X線で軸決めをした後、正方晶のc軸、a軸と[110]の三方向で帯磁率と68テスラまでの高磁場磁化測定及び35GHzから1.6THzの遠赤外領域までの多周波ESR測定を行った。この系の興味は、最近精力的に研究が行われている分子磁性体などの小数多体系で幾何学的な配置による相互作用の競合を有する場合、量子効果とフラストレーションの両方の観点から新奇な物性が観測されるのではないかという点にある。この化合物の帯磁率は単調に高温側から増加するが、帯磁率と温度の積は高温側から減少し、反強磁性的な相互作用が支配的なクラスターであった。1.3Kの68Tまでの磁化曲線は低磁場から単調に増加し、飽和磁化の1/2でプラトーを形成した後に40T辺りで増加し3/4の大きさの所で再度プラトーを形成した後65T辺りで再度増加する。これらに関してはバタフライ構造の真中の二つのスピンが反強磁性的にカップルしてそれらと端のスピンが弱く反強磁性的に相互作用していると考えて解析を行い、ほぼ帯磁率も磁化も説明することができた。ESR測定はgが2.2辺りのいくつかのシグナルと4.4位の弱いシグナルが観測された。これらのシグナルを現在上記モデルで解析中である。この化合物では基底状態近傍で一重項、三重項、五重項が擬縮退していることから複数のシグナルが現れたと考えている。パルス磁場を用いた遠赤外領域の測定も行い、低周波数の時と同様なgが2.2のシグナルと4.4位の弱いシグナルが観測された。これらは小さなシングルイオン異方性DとEを考慮に入れて説明ができると考えている。 その他には従来からやっているスピン量子数1の反強磁性ボンド交替鎖に関して詳細なESR測定を行い、基底状態研究を行った。また、結合の特殊性から強磁性-強磁性-反強磁性-反強磁性の相互作用を有する銅の錯体化合物の単結晶の合成に成功し比熱、磁化、ESR測定を行った。量子フェリ磁性体に特徴的な低温の有限の比熱や磁場中の振る舞いが観測され、また、磁化は飽和磁化の半分のプラトーと急激な飽和磁場近傍の増加を観測した。ESRに関しては典型的な一次元磁性体の振る舞いが観測されたが、一次元反強磁性体とは異なる線幅の温度変化が見られた。さらに良質の単結晶が得られるスピン量子数1の反強磁性ボンド交替鎖のニッケル鎖化合物NTENPで詳細な比熱測定を行い、ある磁場以上で長距離秩序をする事を明らかにし、また、磁場のかける方向によって磁場-温度相図が異なることとその変化がS=1反強磁性鎖化合物のNDMAPとほぼ同様であることを明らかにした。
|