研究概要 |
現在,固体の電子構造の研究には密度汎関数理論で導入されたコーン、シャムの一電子方程式が広く活用されている.固体中の準粒子のエネルギーバンドとしては電子間相互作用の効果を非局所的で,かつエネルギー変数に依存する形で記述する自己エネルギー演算子を含むダイソン方程式の使用が正統な方法である.グリーン関数の汎関数として与えられる基底エネルギーの正確な表式に基づく議論から,コーン・シャムの方程式中の交換相関ポテンシャルは,ダイソン方程式中の自己エネルギー演算子に対する変分的意味で最適化された局所的近似に相当するものであることが証明されている[Phys. Rev. A51, 2005 (1995)].また,これら二つの方程式は最もエネルギーの高い占有一電子準位については同一の解を与えることも証明れている.LDA,GW近似を超えて固体の電子構造を理論的に探究するためには,自己エネルギー演算子および交換相関ポテンシャルについての上記の相互関連に注目し、これら二つの方程式を関連,併用させて近似を発展させる方法を採用する.10年前に安原と高田が開発したGW近似を超えた近似[Phys. Rev. B43, 7200 (1991)]はシリコンおよびナトリウムのバンド計算に実際に応用され,重要な知見を得ている.ナトリウムの結果が昨年暮に出版された.電子液体と同様に、占有バンド幅は幾分、自由電子の場合よりも拡がる.また、伝導電子間の非局所的なスピン平行間ポテンシャルの、フェルミ面の歪みへの影響は見られなかった.他方、密度汎関数理論の発展を目指して、軌道に依存した相関エネルギー汎関数を電子液体の長中短距離相関の情報を借用して、2次の直接交換摂動項類似の形にまとめ、その諸性質を強相関電子系との関連で論じた 角度分解光電子分光は固体の電子構造を研究する有力な実験手段である.しかし,その実験結果の解釈に関する基礎理論研究の進歩は大変遅い.これはこの理論研究が実験そみものに劣らず重要な課題であることを鑑みれば、忌々しきことである.実際,この手段で測定された単純金属の占有バンド幅が通常のバンド計算の結果と比べて,Naで18%,Kで25%も縮小しているというPlummerらの報告から10年以上も経たごく最近、固体電子論におけるこの基本的な問題に納得のいく解釈が初めて与えられたのである上記の解釈は安原らよる計算である高田は1995年に自らが発展させた自己エネルギー改訂演算子法に基づいて、同問題に取り組み、自己無撞着性をも満たす精巧な計算を実施して、実験とのさらに良い一致を得た。角度分解光電子分光の実験において、従来から採用されてきた、終状態のエネルギーに対する自由電子模型の仮定のため、ナトリウムのバンド幅が見かけ上、18%も縮小して見える、そして占有バンド幅は理論的には交換相関効果のため、むしろ多少拡がることが、二つの異なる計算で確定された
|