本研究では、抵抗体における1/fゆらぎの発生機構を調べるため実験とシミュレーションのを交えた検討を行った。実験では、格子振動の状態と抵抗ゆらぎの関係について調べるため、カーボンファイバーを試料として張力を印可し原子間の非線形相互作用を変化させながら抵抗値及びそのゆらぎの測定をおこなった。その結果、張力を0〜1×10^<10>(N/m^2)と変化させると抵抗ゆらぎの1/fスペクトルの強度は10倍以上大きくなることが分かった。これに対し抵抗値そのものは約4%程度増大するだけであった。このことは電子の散乱に与るフォノンの数の平均値はあまり変化しないが、そのゆらぎは著しく増大することを示しており、抵抗の1/fゆらぎ発生が格子振動の非線形に基づくフォノン数のゆらぎに起因していることがわかった。また、一次元原子鎖において原子間の非線形ポテンシャルの形状を様々に変化させて格子振動のシミュレーションを行った。その結果、cosh型(またはそのテーラー展開型)ポテンシャルを仮定すると、エネルギーは各フォノンモードに等分配されていてもモード間で授受が行われ、それに伴って電子の散乱断面積が変化した。この散乱断面積ゆらぎを解析した結果、約4桁にわたって1/f^α(α≒1.2)のスペクトルを示すことがわかった。このシミュレーション結果は1/fゆらぎ発生が原子振動の非線形に基づくフォノン数のゆらぎに起因して発生するという実験結果に符合するものであった。この後さらにシミュレーションを進めた結果、原子間相互作用の非線形性のうちべき数4次のポテンシャルが主に1/f^αゆらぎの発生にかかわっていることがわかった。
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