研究概要 |
まず,本研究の溶媒にあたる水のガラス(蒸着アモルファス氷)の中性子回折実験および中性子小角散乱実験を行った。蒸着直後のアモルファス氷をガラス転移より少し低い温度である120K付近でアニールすることにより,平均密度が減少するとともに,0.1Å^<-1>程度の中距離密度揺らぎが減少することが分かった。この結果は既に非弾性散乱実験から存在を明らかにした低エネルギー励起の機構が中距離の水素結合形成度に関わることを示している。次に,メタノール(CD_3OH)および六フッ化硫黄(SF_6)の水溶液ガラスの中性子非弾性散乱を測定した。メタノールは水素が1個足りないのでネットワークを壊す働きを,六フッ化硫黄は疎水性相互作用により水が籠状の水素結合ネットワークを形成するのを促進することが期待される。水素結合ネットワークに関する部分のみを見るため,水酸基以外を全て重水素置換したメタノールを用いた。メタノールの添加は低エネルギー励起強度を増大させること,六フッ化硫黄の添加は低エネルギー励起強度を減少させることが分かった。以上の結果は,蒸着アモルファス氷の低エネルギー励起が水素結合の部分的切断,乱れ,歪みによって生じることを結論付けるものである。 以上の成果を2001年6月17-23日にギリシャのクレタで開催された国際会議「4th International Discussion Meeting for Relaxations in Complex Systems」および2002年1月6-9日にインドのバンガロールで開催された国際ワークショップ「Slow Dynamics and Glass Transition」において発表し(どちらも招待講演),国外の研究者から高い評価を得た。
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