本年度は、3次元古典系の代表例である3次元Ising模型および3次元3状態Potts模型について、その転送行列固有状態を「自由度を増やす補助場を含んだ」局所的なテンソルの積で構成し、大域的な変分フリーエネルギーが極小になるように各局所テンソルの要素を調整することを試みた。熱力学極限においては、大域的な極小と局所的な極小は一致すべきであるから、局所的変分フリーエネルギーの極小を与える方程式を、数値的な反復計算により自己無矛盾に解くことによって最適な局所テンソルを得た。この反復計算は、極小点近傍では正定値行列に対する一般化固有値問題と等価で数値的に安定であるが、極小点を遠く離れると正定値性が崩れ、そのまま局所的に最適化を進めると大域的フリーエネルギーを逆に増大させてしまう。この問題を解決するために、局所的変分テンソルのノルムを保つ拘束条件を導入し、計算を安定化させることに一応成功した。この新たなアルゴリズムの適用により、弱い1次相転移を示す3次元3状態Pots模型の転移点を変分法の範疇で精密に割り出すことが可能となった。また、2次元Ising模型についてはTc近傍を除く温度領域で自発磁化を精密に決定できた。 今後の問題点としては、新たに導入した拘束条件が反復計算の収束を遅くする副作用が一番に挙げられる。具体的には、フリーエネルギー極小点周辺の「くぼみ」が浅くなればなるほど、加速的に計算の収束が悪くなって行く。特に、Ising模型など2次相転移を示す模型ではTcにおいて「くぼみ」の深さがゼロになり、原理的に計算が破たんする。極小点近傍にさしかかった所で、別の加速アルゴリズムを導入することによって解決を計りたい。
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