研究概要 |
当該研究課題の下で,今年度は主として以下の点について研究を行なった.秩序度が一成分で記述できるスカラー型のボーズアインシュタィン凝縮の渦生成の臨界角速度の理論的評価を実験に即したパラメーター即ち,粒子密度と相互作用の強さをNaとRbの原子集団の実験を念頭において計算した.実験によると,系を冷却した後に,光学スプーンで角運動量を与えて渦を生成した時,その臨界角速度はトラップ周波数で規格化したとき約0.6辺りの値となる.この数値は我々の計算において幾つかの臨界角速度が算出されるのであるが,その内の表面モードが不安定になる条件に合致している.両者の値の一致から,渦は回転を速めていく時,表面モードが不安定になった時に表面から内部に侵入していくものと結論できる.実際,後のGP方程式に基づく他の研究者のシミレーションでもこのことが証明された.もちろん,渦生成の過程はこれに限るわけではなく,実験の状況で他の基準に基づく臨界角速度が実現しうる.事実,系を高温から回転させたまま.冷却してボーズアインシュタイン凝縮に到達して渦の生成を観測する実験がおこなわれはじめた.この場合の臨界角速度は上のものとはかなり異なっている.実験のデータは詳しい解析に値する程には十分ではないが,今後実験の進展と共に我々の理論計算がその解釈に役にたつものと期待される. 3成分のオーダーパラメーターをもつスピノール凝縮系については,円筒対称性を有する渦,並びに非円筒対称な渦の双方について拡張されたボゴリュウボフ理論に基づいて計算を進めた,その結果,系が反強磁性相互作用をしているNaのような場合,外部回転や系の磁化に依存して多彩な渦が存在しうることを見出した.特に興味深いのは低回転,低磁化領域での非円筒対称な渦の安定化である.この種の渦はこれまで見出されていなかった,3成分のオーダーパラメーターをもつスピノール凝縮系に特有のことである.また,強磁性相互作用をしている系についても同様の渦の考察を行なった.この強磁性の場合は空間一様な状況では3成分は相分離を起こすが,外部回転の下では混じりあい,渦を形成することが明らかになった.反強磁性の場合と同様にこの強磁性の場合にも円筒対称性を有する渦と共に非円筒対称な渦も存在することがわかった.また,円筒対称渦においてはある成分の渦の巻き数が2を持つ時に系が安定化することも見出された.今後,これらの興味深い渦が実際の実験のなかで観測されることを期待したい.
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