本研究では結晶性高分子の高次構造に見られる自己組織化ダイナミクスにおける対掌性の選択機構を明らかにすることを目的とした。高分子の結晶化で出現する複雑で多彩な高次構造造の典型例として、同心円状の周期構造が球晶に自発的に出現することが知られている。本研究では、光学顕微鏡・走査型原子間力顕微鏡(AFM)による観察により、周期構造出現の原因である微結晶捻れの対掌性選択機構に焦点を当てた。特に分子鎖に光学異方牲がないポリエチレンやPVDFなどの高分子における具体的な対掌性選択機構について実験的研究を進めた。 (1)溶融体から結晶化させたPVDF単結晶の3次元形態が全て椅子型になることを、我々は以前に明らかにしている。そこで我々は、PVDFバンド球晶におけるラメラねじれの原因が、有力なモデルとして知られていたKeith-Paddenの機構ではなく、椅子型の3次元形態内部の歪みを解消するために優先的に導入されたスパイラルテラスに由来する可能性が強いと結論した。KPモデルであれ、椅子型結晶に基づく機構であれ、形成されるスパイラルテラスの巻き方は単結晶の成長方向で決まるという対掌性選択機構をもち、その向きが成長方向で逆になることが期待されていた。今回のAFMによる球晶表面観察により、バンド球晶の表面で見られるラメラ状微結晶のスパイラルテラスに由来する多段テラスについて、この規則性を初めて確認することができた。 (2)椅子型の立体構造をもつ薄いラメラ結晶はサンプリング時に簡単につかれてしまう難点があり、その3次元形態は不明のままであった。本研究では、ポリエチレン椅子型単結晶の3次元形態を光学顕微鏡・AFMで初めて観察することに成功した。椅子型単結晶内部の歪みにより、a軸方向に関して対称に逆巻きのらせん転位が生じるという、対掌性選択機構を我々は提案している。今回の観察で、この選択的らせん転位形成を確認し、バンド球晶中で見られるラメラ微結晶のねじれの椅子型モデルによる説明の妥当性を検証することができた。
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