トポロジカルフラストレーションによる構造緩和のスローダウンが期待される高圧下でのヨウ化錫液体の実験的研究を推進した。SPring-8のBL14B1実験ステーションに設置された高温高圧発生装置SMAP-IIを使用してエネルギー分散法による放射光X線その場回折実験を行い、1000K、8GPaまでのヨウ化錫の相図をほぼ決定することに成功した。特筆すべきことは低圧結晶相の融解曲線を完全に決定できたことである。この結果、融解曲線は約3GPa付近に極大値をもつことが分かった。従って、3GPa前後の液相中で局所構造の変化を伴う相転移の存在が予想される。この圧力付近から分子解離が進むことが他の実験結果から類推され、従って、この液相内相転移は分子性液体からのpolymerizationが起こると期待される。このことを確認する実験的研究は平成16年度の日本原子力研究所関西研との協力研究という形で推進されることが決定している。 上の実験に関連してヨウ化錫の分子動力学法による計算機シミュレーションを行い、低圧結晶相の熱力学的安定性について議論した。これまでのモデルでは分子間のvan der Waals相互作用しか考慮しておらず、これが低圧結晶相の過安定性の原因だと考えた。そこで特に高圧下で重要になると考えられる分子間の多重極相互作用を考慮したモデルを構築した。シミュレーションの結果、1.0GPaでの融点が約5%降下することが分かった。しかしながら実際の融点よりは依然として数百K高い。この差はこの圧力で既に分子の変形が進み、電子状態の変化が起こった結果によるものと考えている。
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