トポロジカルフラストレーションとは、系の構成要素、例えば分子、を空間的に充填した際に最適な局所的配置と大域的配置の間に不一致が見られる状況を指し示す。研究代表者はこの状況がガラス等の非晶質構造の構造安定化を担っていると考えた。自由エネルギーコストから考えると、系はフラストレーションの結果生じる「位相欠陥」を出来るだけ空間的に凝縮しようとするであろう。本研究は、正四面体が3次元空間を充填出来ないことに着目し、剛体正四面体からなる理想的な系内にトポロジカルフラストレーションによって生じる位相欠陥を動的密度汎関数法で浮き彫りにし、この位相欠陥の再配置に伴うスローダイナミクスの存在を明らかにしようとするものである。 実際の研究対象としては正四面体対称性を有する分子SnI_4から成る分子性固体を選んだ。このヨウ化錫は圧力誘起により非晶質化することが知られているからである。この非晶質化現象をトポロジカルフラストレーションの立場から議論するのが狙いであった。方法としては分子動力学法による計算機シミュレーションの他、SPring-8での放射光X線による回折実験も行った。これは高圧下での実験的知見に乏しかったからである。一連の研究の結果、非晶質化の直接的原因はフラストレーションによるものではなく、分子解離によるものであることが明らかになった。この事実をもとに、系の構成単位を分子より更に細かい要素に分けるとその新たな構成要素間での最適配置を見出すのがトリビアルな問題ではないことに気づいた。無矛盾な最適配置には更に細かい構成単位が必要となる。即ち、最適配置という観点からは分子解離は物の「理」として理解されるのである。そこで本研究を発展させた新たな課題としてこのことを定量的に明らかにして行く予定である。
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