研究概要 |
基盤研究(C)が始まった直後の2001年10月1日に、私上妻は、東京大学大学院総合文化研究科の助手から東京工業大学理工学研究科の助教授となり、新しい研究室の立ち上げを開始することとなった。当初基盤研究(C)の研究費は、コヒーレントな原子波(ボース凝縮体)に対するファイバーを実現するために使用する予定であったが、新しい研究室においてこの予算だけでゼロから装置をたちあげて原子波ファイバーを実現することは難しい。国から与えて頂いた予算を十全に活用し、かつ5ヶ月というごくわずかな間に成果をあげるために、予算を新しい研究テーマの執行につかわせていただいた。そして、この対応はみごとに適中し、研究室の立ち上げ中にも関わらず、合計4本の理論、および実験の論文を最高級の雑誌であるPhysical Review Lettersに投稿することができた。しかもその内一本は、すでに受理されている。以下が投稿および受理された論文の一覧である。 1."Optical wave group velocity reduction without electromagnetically induced transparency", L.Deng, E.W. Hagley, M. Kozuma, and M.G. Payne, submitted to Physical Review Letters. 2."Ultra-slow optical-wave group velocity reduction and storage of light without electromagnetically induced transparency", M.Kozuma, D. Akainatsu, L. Deng, E.W. Hagley, and M.G. Paynesubmitted to Physcial Review Letters. 3."Coherent transfer of orbital angular momentum from atomic system to light field", D. Akamatsu and M._Kozuma, submitted to Physcal Review Letters. 4."Opening optical four-wave mixing channels with giant enhancementusing ultra-slow pump waves", L. Deng, M.Kozuma, E.W. Hagley, and M.G. Payne submitted to Physical Review Letters. (受理) 最も速く壊れにくい情報伝達担体、それは光である。光量子テレポテーションの研究にみられる様に光は古典情報だけでなく量子情報をも伝達することが出来る。次世代の通信が量子情報を持つ光を媒体としたものになる事は間違いない。しかし光は、情報の凍結保存が難しく、その事が光通信技術の進展を大きく阻んでいる。新しい研究の目的は、光情報を原子系のスピン状態として凍結し、好きな時に再生することにある。この研究が成功すれば、一例として光量子情報を中継地点でスイッチングする事も可能となり、莫大な通信産業市場が生み出されることになる。本年度において、我々は、全く新しい光凍結の手法を提案し、理論的にその妥当性を証明した(論文1参照)。さらに、我々のアイデアを実験的に世界で初めてデモンストレーションすることに成功した(論文2参照)。光を利用した量子情報通信の自由度を増やす手法として、光の軌道角運動量を利用することが、ごく最近になって提唱されるようになってきた。我々は光凍結の方法を利用して、光子の軌道角運動量を自由に操作する全く新しい手法を提案し、その実験デモンストレーションに世界で初めて成功した(論文3参照)。さらに、光凍結の手法を発展させて、物質の非線形光学応答の桁を7桁も増大させる新しい手法を理論的に提唱することにも成功した(論文4参照)。
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