スピン空間でのウィグナー関数の理論を発展させ、スピンを考慮した確率過程の理論的整備を行った。スピン空間を扱うためには、一辺が偶数個の格子点からなる2次元正方格子の上にウィグナー関数を構成する必要がある。今まで、格子点の間にさらに仮想的な格子点(ghost variable)を考え一辺が偶数の2倍の格子点を持つように拡張した場合には、ウィグナー関数の存在が知られていたが、我々は仮想格子を導入せずにその構成が可能であることを示した。さらにそれらが無限にたくさんあるが、1つの解が見つかればそれにある種のユニタリー変換を行うことによりすべての解が得られ、そのユニタリー変換はNを一辺の格子数とするとき、(N-1)x(N-1)次元の実直行群でラベルされることがわかった。この意味で、この結果は一辺が偶数個の格子上のウィグナー関数の存在に関する最終的な解答となっている。(論文1参照)これに関連して、複数存在するウィグナー関数にどのような条件を課すと一意的に定まるかを考察した。連続空間の場合には、回転対称性を要求すれウィグナー関数は一意的に定まる。離散的な格子空間では回転は存在しないが、回転の一般化に相当すると考えられる一次変換に対して、連続の場合と同様な対称性を要求することにより、Nが奇数の場合にはウィグナー関数が一意的に決定されることが示された。今後は、これらをもとに具体的な確率過程の構成と、そのシミュレーションによるトンネル時間の評価が課題となる。
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