研究概要 |
多層ラメラ形態のリン脂質集合体に取り込まれた水は、多層ラメラ"水和層"、或いは、"剰余水領域"に存在するが、含水量値によって異なる。例えば、L-α, distearoyl phosphatidylcholine(DSPC)の場合、15wt%含水では水和層のみに水は存在するが、44wt%含水では水和層に収納できなかった水が剰余水として多層ラメラ領域外にプールされる。DSC熱分析とx-ray回折実験結果から、メルティング温度から-120℃までの降温過程で、(1)剰余水領域は過冷却状態が約-20℃まで持続し、その後、急速に均質六方晶系状氷を形成する、(2)水和層は-45℃近傍まで過冷却状態の持続後、約10℃温度範囲にわたって不均質六方晶系状氷を徐々に形成する。また、昇温過程においては、剰余水領域の氷は0℃で融解するが、水和層で形成された氷は約-30〜-15℃の広範囲で融解する、ことなどを検証することができた。しかし、11wt%含水多層ラメラDSPCでは、-190℃近傍に至るまで、水和層内での六方晶系状氷、立方晶系状、及び、非晶質氷の発生をx-ray回折実験で確認することはできなかった(このことはJCPに掲載済)。水和層の厚みはせいぜい30Å程度であり、水分子に換算して10層程度である。含水量によってこの水和層の厚みは変化するが、水和層内は極性頭部にH_2O分子が強く拘束される"不凍域"と"凍結域"に大まかに分類される。DPSCの場合、15wt%含水では水和層に両水域が存在し、11wt%含水では後者水域のみが存在すると予想され、x-ray回折での結果が得られたものと考える。更に、H_2O分子のOH伸縮振動の様子を、多層ラメラ形態DSPC含水量が44wt%、15wt%、11wt%の3種類のサンプルを用いてラマン散乱で測定した。OH伸縮振動スペクトラからでも水和層や剰余水領域での氷発生の有無を確認することができた(論文投稿準備中)。
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