研究概要 |
本研究では,界面に閉じ込められた高分子鎖間の二次元な相互作用を調べるため,主として水面上高分子超薄膜の光散乱分光法による粘弾性測定を行っている. 1.動的光散乱の高分子濃度依存性 2次元高分子系では濃厚溶液あるいは融液の場合でも,分子鎖の重なりは生じない.これはde Gennesの教科書にもあるような,分子鎖濃度に関する初等的な議論によって示すことが出来る.本研究で用いた擬二次元系において,このような描像がどの程度の妥当性をもつのかを検証することは重要である.我々は,高分子溶液の粘性が濃度によってどのように変化するかを,動的光散乱による緩和時間測定から考察することとした.対照実験として三次元系のバルク溶液で濃度依存性の測定を行った.協同拡散と自己拡散の寄与が観測され,濃度の増大にともなって,協同拡散係数は増加し,自己拡散係数は減少した.一方,2次元系では,分子鎖密度が十分濃厚領域にあると思われる領域で,高分子からの信号と思われる散乱光揺らぎが観測され,拡散係数の評価が可能であった.しかし,散乱光が観測可能な濃度範囲では,拡散係数の有意な変化は見られなかった.また,高濃度域では展開膜の凝集(3次元化)の問題があり,我々の実験でもその可能性を排除できなかった.今後,ブリュースター角顕微鏡などを用いて膜のモルフォロジー観察を同時に行う必要がある. 2.エバネッセント波散乱配置の検討 バックグラウンドおよび迷光の低減のために,エバネッセント波散乱配置の導入を検討している.現在,シミュレーションによって最適な光学配置を設計している.また,気水界面に吸着した高分子からのエバネッセント波散乱強度を数値計算により評価した.双極子散乱の近似のもと界面の誘電特性を取り入れた計算から,散乱光に非常に強い角度依存性があることが分かった.界面からの反射電場と散乱電場の緩衝効果が主な原因であるが,この特性を有効に利用すれば,表面光散分光の感度を飛躍的に向上させることも可能であると考えられる.
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