本年度の研究では、まず最初に昨年度に続いて、グラフ上の量子論の最も簡単な場合である一直線上に一点の欠損がある場合の1粒子量子系についての分析を行った。著者らの以前の研究で、この系は最も一般的には群U(2)であらわされる4つのパラメタの点状の相互作用のある系として記述されることが分かっていた。これは数学的には四次元超球面S^4に一次元閉輪S^1を掛けたものに他ならないが、このなかに含まれる「切断型」のトーラスT^2について考察した。これは物理的には同等な量子的な反射壁が2つ向かい合わせになっていることにほかならず、この一方のみを考えると1パラメタ続で記述される量子的に可能なすべての反射壁面に他ならないことがわかった。これはディリクレ条件、ノイマン条件そしてその中間に相当する条件を含む。次に本年度の研究では1次元的な線上欠陥を考察する前段階として、二次元平面上で点状欠陥を数多く一次元的に配置した系を考察した。量子的運動を考えると、点欠陥の間の距離が運動する粒子の波数より小さい場合には、これは実質上線上欠陥が存するのと同様ではないかとの推測を数値実験的に確かめることができた。さらにこれの興味深い応用として、二次元平面上で複数の点状欠陥をリング状に配置した系を考案し、この系の上の量子固有状態を調べたところ、リング状の量子線の場合と同様の永久電流が流れている状態であることを発見した。これはナノスケールの量子素子のひとつとして注目を集めている「量子リング」と同等なものが点状欠陥を数珠繋ぎにした物でも実現できるということを示唆している。
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