本研究では、グラフの量子論、すなわち複数の一次元的直線を接点で接続した構造物上に存在する量子的粒子の運動についての研究を行った。これは、量子で細線デバイスを理想化した数学的モデルであり、さらには量子計算のための素子ともなりうる事が期待される系である。量子グラフには通常の量子力学では見られず、「場の量子論」にのみ出てくるよう様々な奇妙な現象が隠されていることが、これまでの筆者の研究で明らかになっている。本研究において、そのような諸現象の背後にパラメータ空間のU(N)多様体構造があって、その非自明なトポロジーが「スペクトル非ホロノミー」、「ベリー位相」、「スケール異常」「双対性」といったものを引き起こしている様を、統一的にわたって解明することに成功した。さらに量子グラフに置ける散乱現象、輸送現象について、このような非自明性が生み出し得る効果についての研究を行い、そのメゾスコピック系への応用の可能性を探った。この問題は、最も簡単な設定では2つの直線が1点で接して居てその接点の性質が特定されないという問題、すなわち「点状相互作用の理論」に帰着するが、この時はパラメータ空間の非自明な構造とはスピン型のエネルギー不変変換を持つU(2)群に他ならない。この群のS2とT2への興味深いスペクトル分解の解明もこの研究の主要成果である。現在この研究の発展として、このU(2)群を、半古典的に安定な量子ビットのデザインに用いるという構想が進められているところである。
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