研究概要 |
初年度に導入した熱消磁装置を使用し,古地磁気の方向と強度について実験的研究を行った.雲仙火山と御嶽火山にて野外調査を実施し,多くの定方位試料を採取した.雲仙火山の研究からは,西南日本におけるブリュンヌクロンの古地磁気永年変化の大きさが,他の地域と同程度であるが,古期雲仙のほうが新期雲仙より大きいことが分かった.また,段階熱消磁に基づいた火砕流の形成温度の見積もりや,古地磁気方向による溶岩の同定などにも成功した.御嶽火山では,日本においても更新世後期に地磁気エクスカーションが起きたことが,溶岩から発見されたことが大きな成果である.実際,地磁気エクスカーションを記録している安山岩溶岩にテリエ法を適用して得られた古地磁気強度は,通常の1/10程度である.また,この地磁気エクスカーションによる仮想的地磁気極は太平洋中央部に位置し,ニュージーランドで発見されたオークランドエクスカーションの1グループと良く一致する.このことから,エクスカーション中は赤道双極子成分が残ることが提唱された.国外の火山岩に対する研究として,中国,内モンゴルの白亜紀玄武岩にテリエ法による古地磁気強度実験を行った.現在の1/3程度の弱い値が得られ,長期にわたる地磁気静穏期であった白亜紀は,地磁気強度も小さかったことを確認した.これらの実験的研究成果を踏まえて,古地磁気永年変化の異方性を考慮した統計モデルを開発した.地磁気は現在も過去も大局的には双極子が卓越しているが,ある程度の異方性が見られる.この2つの条件を満たすモデルとして,ガウス型の揺らぎを伴う偏心双極子による磁場分布をシミュレートしたところ,角度分散の緯度依存性,強度ヒストグラムの形など,多くの観測結果を説明することが出来た.
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