研究概要 |
今年度は,屈折法探査や広角反射法探査の解析に特化した爆発型の点震源から励起された弾性波動を計算する効率的な手法を新たに開発した。この手法は,地下構造を奥行き方向に一定の2次元構造と仮定して,3次元波動を計算する,いわゆる2.5次元波動計算法である。現時点では現実的な3次元構造を対象にした波動計算はスーパーコンピュターを用いても膨大な計算メモリと計算時間がかかる。構造探査においては,走時の精度を確保するために非常に小さな格子間隔を用いなければならないので,これは深刻な問題である。2.5次元波動計算はこれを解決する優れた方法で,2次元計算並みの計算メモリーで計算可能である。2.5次元波動計算は2次元波動計算とは異なり,正しい3次元波動の幾何減衰とパルス形状を与える。しかし,これまで発表されている従来の2.5次元計算法では,計算時間が3次元計算と同じくらい必要であった。通常構造を求めるためには非常に多くのケースについてモデル計算しなければならないので,これもまた深刻な問題である。本研究では,この度計算時間についても2次元波動計算と同程度ですむ新しい2.5次元波動計算法を開発した。 今回開発した新手法は,従来の2.5次元計算法がデカルト座標系の方程式を解くのに対し,円筒座標系の方程式を2.5次元波動が扱えるように変換したものを解く(「Quasi-cylindrical Approach」と呼ぶ)。今年度この手法の定式化を行い,複雑な構造がフレキシブルに扱える数値計算法の一つである差分法を使って計算コードを作成した。差分は一部分を除いて空間4次精度,時間2次精度のスタガード格子差分法を用い,規則格子を用いて変位-応力型の方程式を離散化した。さらに,開発したコードを現実的な地下構造モデルに適用した。地下構造モデルは南海トラフを横切る測線の海を含んだ構造である。計算結果を従来の.5次元波動計算法の結果と比較することにより今回開発した手法の精度,安定性や効率性を確認することができた。実際の観測記録を解析するためには,今回用いた格子をさらに小さくしなければならないので,不規則格子を使用するようにプログラムを改良する必要があるかもしれない。
|